【全仏オープン】棄権の裏にあった素直さとジレンマ 大坂なおみが再び輝くために

 

【全仏オープン】棄権の裏にあった素直さとジレンマ 大坂なおみが再び輝くために
全仏初戦に勝利し笑顔を見せた大坂なおみだが、当分は休養予定(2021年5月30日)(C) Getty Images

■今は彼女らしくいられる安心な場所で過ごすべき

正直に言うと、筆者自身も引退を決めた頃から突如パニック障害を発症し、呼吸ができなくなってしまう瞬間や、腹痛と嘔吐に襲われる時期があった。その時は、どうしても人混みを受け入れられず、物音やしゃべり声が急激に大きく聞こえ出し、目がまわってしまった。この事態を人に相談することも恥ずかしく感じ隠しているだけであったが、勇気を出して信頼できる人たちに話すことで症状は和らいでいった。常に強くあろうとするがゆえに、孤独感が大きくなりすぎて自身の心を蝕んだ時期だったのかもしれない。

今では「心の風邪だったな」と過去を振り返ることができ、またそんな繊細な一面も自分自身であると受け入れている。

大坂の症状がどのようなものであるかは分からないが、心身ともにとても苦しくなるときがあるのだろう。そう考えると今の彼女のベストを尽くした決断に非はあるのだろうか? それよりも彼女が試合を続けられる環境を確保し、プロテニスプレイヤーとして本職を全うさせてあげることの方が大切だったのではないだろうか。今回の大会棄権を知らせる彼女のメッセージもとても素直な気持ちを表していたと思う。そして人間らしく、なおかつ23歳の若者が日々様々なことを考慮しながらもプロアスリートとして「美しく、たくましく」あろうとした結果の姿だろう。今回の大坂の行動がメディア界に一石を投じたことは間違いない。

しばらくの間、テニスコートから離れるとも発表していたが、メッセージの最後には「今後、落ち着いたらツアーと協力して、選手、報道陣、ファンにとってより良いものにする方法を話し合いたいと思います」と書き綴った。そのときをまたゆっくりと待っていたい。今は社会から押し付けられた責任や期待は自身の心の部屋から放り投げて、ただ彼女らしくいられる安心できる場所で過ごしてほしいと願う。

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著者プロフィール

久見香奈恵
1987年京都府生まれ。10歳の時からテニスを始め、13歳でRSK全国選抜ジュニアテニス大会で全国初優勝を果たし、ワールドジュニア日本代表U14に選出される。園田学園高等学校を卒業後、2005年にプロ入り。国内外のプロツアーでITFシングルス3勝、ダブルス10勝、WTAダブルス1勝のタイトルを持つ。2015年には全日本選手権ダブルスで優勝し国内タイトルを獲得。2017年に現役を引退し、現在はテニス普及活動をはじめ後世への強化指導合宿で活躍中。国内でのプロツアーの大会運営にも力を注ぐ。

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