【スポーツビジネスを読む】Strava三島英里シニア・カントリー・マネージャーに訊く 後編 「グロースの女王」が語る成長の3つの秘訣

 

■Stravaの今後のビジョンとは……

こうして三島さんの話に耳を傾けていると、Stravaが単なるアプリではなく、テクノロジー・カンパニー、データ・カンパニーである事実がよく理解できる。「Strava Metro」では、どこでどの時間帯に自転車のトラフィックが多いのかなどアクティビティとして収集したデータを、個人情報をマスキングした上で、自治体に提供、自転車レーンやサイクリングロードの整備に役立てている。このデータを活用し、ロンドンではクルマの入れない区画を拡張、「自転車の街」として生まれ変わりつつあるという。つまりは、ユーザーのアクティビティが、そのまま社会変革のためのデータとして利益還元されるエコ・システム構築に役立っているのだ。

さらに「(Stravaでは)毎年、『Year in Sports』を発表しています。1年のアクティビティのログを分析し発表する、アスリートのデータを保有するカンパニーとしての一つの取り組みです。こうしてトレンドを出すと、日本の特異性がわかります。サイクリングとランニングは、日本では海外ほどコミュニティ・スポーツではありません。ソーシャル性が付随していないのです。イギリスはランニング文化ができあがっていて、「紋」がある伝統的なランニングクラブまであります。ブラジルは『アセソリア(=アドバイザーの意)』と呼ばれるインフルエンサーがいて、アセソリアが率いる、貧富なく誰でも参加できるランニング・グループが存在します。日本はソロ活動の割合が多く、Strava上においても、フォロワーが極端に少ないのです」と、こちらも日本特有の自主鍛錬の文化がデータに反映されている。

また、日本人はその活動時間においても特異性が見られるという。「日本ではアクティビティとして朝早く、夜遅い。特に夜20時以降に集中しています。Stravaはアメリカではサンフランシスコ、イギリスはブリストルにオフィスがあるのですが、自転車置場もシャワー室もあり、ほとんどの社員が自転車通勤しています。アクティブ・トランスポート(この場合は移動とアクティビティを兼ねる意)の意識がとても高いです。また前職のFacebook本社では、キャンパス内にジムまで完備しています。ですから散歩しながらワン・オン・ワン・ミーティングが行われたり、ワーキング時間も広くアクティビティに活用されています」と日本のガラパゴス性についても指摘した。

サンフランシスコ本社の自転車ガレージ 写真:本人提供

日本の特異性という意味ではジェンダー問題で世界的に遅れをとり、女性が暮らしにくいとされる日本社会について、企業のトップとして、どう考えているのか、ズバリ聞いてみると「もちろん、日本にもジェンダー問題があるとは思っていますが、それは世界レベルでも問題だと考えています。来年からいよいよ女性のレースも開催される運びとなりましたが、あの『ツール・ド・フランス』も歴史的に長らく、男性のみでレースが行われてきました。また、レースにおいても賞金額を見れば男女の差は歴然ですし、グッズ面を振り返れば換えのリーダージャージが足りないとか、レースでの提供数が足りないなど、さまざまな不備に直面します」と、ジェンダー問題は必ずしも、日本だけに残された問題ではないという観点に及んだ。

最後に今後のStravaのビジョンについて聞いた。「スポーツをする上での大きな問題はモチベーションだと思っています。Stravaでは『People Keep, People Active』というスローガンがあり、人を動かすモチベーションになるのは人の力だと考えています。そして、そのモチベーションとなりうるツールを提供していくのが、Stravaです。StravaのAPIは全世界で6万社に活用されていますが、プラットフォームとしての成長=『コネクティッド』を図り、デバイスや運動環境に関係なく等しくStravaを活用してくれることで、その人々を繋いで行きます。またさらに、Strava Metroのようにそのデータを提供し活用していただくことで、社会への貢献を目指しています。そして、この2つが、スポーツをするモチベーションへも繋がっていくと信じています」。

スポーツをする」が「社会貢献」につながる。これまでの日本のスポーツ界にこうした発想はあっただろうか。

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物腰が柔らかくたおやかでありながら、三島さんの中に「グロースの女王」の強い意志を見た思いがした。さて、StravaがFacebookやInstagramのように、日本人にとって欠かせないツールに成長するのか……密かに楽しみにしながら私自身、今日も都心移動のために自転車を漕ぐのだった。

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著者プロフィール

松永裕司●Stats Perform Vice President

NTTドコモ ビジネス戦略担当部長/ 電通スポーツ 企画開発部長/ 東京マラソン事務局広報ディレクター/ Microsoft毎日新聞の協業ニュースサイト「MSN毎日インタラクティブ」プロデューサー/ CNN Chief Directorなどを歴任。出版社、ラジオ、テレビ、新聞、デジタルメディア、広告代理店、通信会社での勤務経験を持つ。1990年代をニューヨークで2000年代初頭をアトランタで過ごし帰国。Forbes Official Columnist

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