【WTA】現代のテニスを進化させた次の「絶対女王」アシュリー・バーティ突然の引退とその理由

 

【WTA】現代のテニスを進化させた次の「絶対女王」アシュリー・バーティ突然の引退とその理由
引退発表をしたアシュリー・バーティ(C)Getty Images

■「自分ができることをすべて出し切った」

今回の大きな決断が彼女自身にとって、すべてが計画的なものではなかったはずだ。今年初めに悲願の全豪優勝を果たした瞬間、今ではあのポイントが最後になるとは思ってもいなかったと話し、10日前まではボールを打っていた。

ただ常に「辞め時」というタイミングを探していたのは事実だろう。それは全身全霊を競技に懸けるアスリートの道理である。3年前に四大大会を初優勝した全仏後、コーチのタイザー氏に話したひと言目は「引退してもいい?」だったとも打ち明けた。そして昨年に真の夢だったウィンブルドンを制覇してからは「私のアスリートとして視点を大きく変えた。自分の幸せは結果に左右されないという変化がキャリアの2段階目に差し掛かった時に、私の中にあった」とコメントした。

この過程を踏みながら、いまだ終息が不透明なパンデミックのなか、日々のコロナ検査やバブル生活、そのうえ隔離生活に対して厳しい母国オーストラリアへの帰国が叶わなかったシーズンを過ごしたことから、今とは違う生活への欲求が加速したこともあるかもしれない。そして夢を叶え戻った家族との日々に、自身の気持ちが素直に整理されるという自然の流れでもあったと思う。

欲を言えば、まだ果たせていない全米を勝ち取ることや、年間グランドスラムを狙うこともできただろう。テニスでの成功を手段とし他のビジネスにも参加することが出来たかもしれない。でも彼女にその様子は見えない。今回の決断も然り、これまでにも彼女の言動には「人生を豊かにするためのスポーツ」という点が色濃く映し出されている。心身の成長に重きを置き、最も高いレベルに到達する。そして自分にとって必要以上のことは追いかけない。

わたしにとって成功とは、自分ができることをすべて出し切ったということ」。

その様が、スポーツの本質を知っているようで、あの晴れ晴れしい笑顔が驚くほどに潔く見えた。

今後は、地元オーストラリアの地域社会への貢献と「スポーツに親しむ機会を増やしたい」と話している。彼女ほどスポーツを愛し、多くの経験を語れる伝道者はいないだろう。また他のスポーツに挑戦するかという質問を否定しなかったバーティが追いかける次の夢とは何なのか気になるところでもある。いずれにせよ、友好的で誰からも愛されるバーティはどこに行っても人気者だ。

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私自身もアシュリーにインスパイアされた1人だった。現役時代にあなたとボールを打ち合い、テニスで繋がれたことに感謝している。人として多くのインスピレーションを与えてもらい、テニスの真の楽しさを教えてもらった。それは同じコートに立ち感じてきたことを含め、いちテニスファンとして試合を観戦することからも多くのことを学ぶことができた。

アシュリー、あなたの人生が、これからも描くとおりに!  素晴らしいものとなりますように

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著者プロフィール

久見香奈恵●元プロ・テニス・プレーヤー、日本テニス協会 広報委員

1987年京都府生まれ。10歳の時からテニスを始め、13歳でRSK全国選抜ジュニアテニス大会で全国初優勝を果たし、ワールドジュニア日本代表U14に選出される。園田学園高等学校を卒業後、2005年にプロ入り。国内外のプロツアーでITFシングルス3勝、ダブルス10勝、WTAダブルス1勝のタイトルを持つ。2015年には全日本選手権ダブルスで優勝し国内タイトルを獲得。2017年に現役を引退し、現在はテニス普及活動に尽力。22年よりアメリカ在住、国外から世界のテニス動向を届ける。

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