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【ラリーアート】AXCRで復活の三菱・増岡浩総監督が語る地球との戦い「それがラリーだ」 前編

 

【ラリーアート】AXCRで復活の三菱・増岡浩総監督が語る地球との戦い「それがラリーだ」 前編
AXCRへ出走する三菱トライトンのメディア試乗会、富士ヶ嶺オフロードのテントで語る増岡浩・総監督 撮影:SPREAD編集部

復活を遂げたチーム三菱ラリーアートは11月21日、その復帰戦としてタイを皮切りに開催されるアジアクロスカントリーラリーAXCR)に参戦する。三菱自動車としては2012年を最後にレース活動を休止、またチームをサポートする形でも2015年のバハ・ポルタレグレ(ポルトガル)以来およそ7年ぶりとなる復活劇だけに、各方面からの期待が高まっている。

帰ってきたチーム三菱ラリーアートの指揮を取るのが増岡浩総監督。

◆【ラリーアート】AXCRで復活の三菱・増岡浩総監督、「いつかはダカール・ラリーに帰りたい」と夢を語る 後編

■「パリダカ」を2連覇したレジェンドが、総監督として復帰

日本ラリー界では泣く子も黙る……とオールド・ファンは思うだろうが、今の若い世代にとって心象は薄いのかもしれない。増岡監督は1982年、当時三菱自動車工業の傘下にあった株式会社ラリーアートに入社。三菱のワークスチーム「ラリーアート」から一貫してラリーに参戦。三菱の最盛期にはパジェロを駆り世界最高峰の「ダカール・ラリー」において2002年、03年と連覇を果たした。44回の歴史を誇る、いわゆる「パリダカ」を制した日本人は、1997年の篠塚建次郎を含めわずか2人。また増岡以降、ポディウムの頂点に立った日本人ドライバーはない。

この日、富士ヶ嶺オフロードで展示された増岡がダカール・ラリーを制したパジェロ(左)、右はバハに出走したアウトランダー 撮影:SPREAD編集部

株式会社ラリーアートは2010年を持って解散。増岡は三菱の社員となっていたが、ラリーアート・ブランド復活と同社のラリー参戦により、総監督として現場に戻って来た。この日、三菱は山梨県・富士ヶ嶺オフロードにて、メディア向け、AXCRに出走する「トライトン」試験車の試乗会を開催、11月に7年ぶりにラリーに参戦する様相を同監督に聞いた。

監督は、試乗会冒頭で「三菱ラリーアートの増岡です」と挨拶を始めると「(降雨により今日の)コース状況はアジアクロスカントリーラリー(AXCR)に似たウェット状態です。こんな時こそ、三菱自動車のいろんな性能を改めて体感してもらえたらありがたいです。AXCRは今年、コロナの影響で11月21日開催となっています。タイからスタートし1500から2000キロを6日間走ってカンボジアでゴールするクロスカントリーラリー。(三菱は)7年ぶりのモータースポーツに復帰、ブランクがありますが、最初は小さく生んで、大きく育てたいと考えています。その一環としてアジアを選びました」と11月に挑むラリーの概要を解説した。

また、新生ラリーアートの復帰については「われわれ三菱自動車らしさを表現していきたい。どんな道でも、安全、確実に速くゴールできる、これが三菱車の特徴だと思っています。今回の主戦場であるアジア地域の屋台骨を支えるのがトライトンというピックアップトラックです。この車を使って、技術開発、アジア地域での商品力強化を念頭に活動して参ります」と宣言。

「しばらくぶりの参戦ですが、強さ、そして優勝を狙いたい。監督としてはクルマ作り、チーム作りを進めて来ました。耐久試験もこなし、あとはスタートを待つばかりで、わくわくしております」と自身も待ちに待ったラリーである見方を示した。

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■ラリーアート復帰は「社長に直談判」

監督はインタビューでも今回の戦線復帰について「ラリーアートの復活は、社長に直談判しましたよ」と開口一番。

「今は(メンバー)みんなが色々な部署との兼任で担当してくれています。(ラリーアート・ブランドのビジネスとしては)ドレスアップ・パーツから入り、実績を上げて機能部品の販売にこぎつけたいですね。前身のラリーアートは別会社でしたけども、今回は推進室という社内でのスタート。やはり子会社となると、会社としての利益追求を求められる。まずは社内で、利益からのプレッシャーから解放してもらい、もちろん赤字はNGですが、まずはトントンからのスタートをさせてもらえるかと思っています。しっかり予算を組んで、腰をすえてモータースポーツの推進ができる。(AXCRの参戦により)アジア地域で売上が上がったとなれば、GOも出るでしょう。まずは実績作り。会社として(ラリーアート復活を)『やってよかった』と思ってもらえれば、次の展開も可能だと考えています」とまだ道のりは長いという考え方を示した。冒頭での「小さく生んで大きく育てる」という挨拶も、こんな計画から生まれたのだろう。

トライトンによる現地テストは順調 (C) 三菱自動車

AXCRの展望については「現地のコースは一部丘陵地帯もあり、岩がごろごろしている箇所もあります。フラットダートにジャングルと実に様々です。(通常開催の)8月なら、今日の(富士ヶ嶺の)雨のようにどろどろな感じなんですけど、今回は11月開催。乾季なんで、土の固い路面になるかもしれない。8月だと、スタックして抜けられないクルマが続出。本番のクルマはウインチを積んで行くんですよ。(ラリーコースは)ジャングルの一本道、真ん中で一台スタックしたら、もう通れない。すでに現地テストをしているけど、路面はわからない」と、いつもと異なる11月開催が吉と出るのか、凶と出るのかは、本番次第というところか。

地元チームは以前から参戦しているので、現地でのノウハウは蓄積されているとの見方に対しては「クルマが変わればすべてが変わってしまう。ラリーは、メーカーとしてもチームとしても『実践力』が試される」と決して楽観視できるものではないと釘を刺した。

ジャングルを抜けるコースには渡河もある。クルマには吸気用のシュノーケルを装備するが、これも「どうしても水を吸ってしまうので、向きなどを工夫する必要があります。もちろん市販車のように、ゆっくり川を渡るにはそれほど支障もないでしょうが、我々はスピードを求めてバッシャっと入るので、どこかから水が入って来てしまう。高さ、長さ、向きと設定するのにけっこう苦労します。これもいくらテストを積んでも、本番の環境はまたわからない。しかもジャングル。上には木々が生い茂っていて、シュノーケルが当たると、今度は逆にハッパが詰まっちゃう。もちろん網は装備していますけど、すごい吸気力なんで葉を吸い込んで詰まっちゃう。カプラー(配線の連結部となるソケット)ひとつとっても、なるべくタテに設置する。横にすると浸水でショートする。本当にひとつひとつの部品に気を配らないと完璧なクルマに仕上がらない」とジャングルを走破するクロスカントリーラリーの難しさを語った。

かつて自身が制覇した、ダカール・ラリーなどの砂漠でも状況は同様なのだという。「砂漠だと、自分が巻き上げた砂をエアクリーナーが吸い込まないように工夫しないといけない。泥の中を走り続けると、自分で巻き上げた泥がラジエーターに蓄積する。これはオーバーヒートの原因になります。クルマをしっかり作り込んで行っても、自然が与える障害を常に乗り越えないといけない。ラリーはとにかく、行ってみないとわからない」まさに、地球とドライバー、地球とクルマ、地球とチームの戦い。だが監督は「それがラリーだ」と穏やかに、しかし熱をこめて語る。

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◆【アジアクロスカントリーラリー】新生チーム三菱ラリーアートの挑戦とその展望 「WRC並みハイスピードの戦いか」

◆【三菱ラリーアート正史】第1回 ブランドの復活宣言から、その黎明期を振り返る

◆【パリダカ回想録】プロローグ:世界一過酷なモーターレース「パリダカールラリー」を振り返る

たまさぶろ

エッセイスト、BAR評論家、スポーツ・プロデューサー

週刊宝石』『FMステーション』などにて編集者を務めた後、渡米。ニューヨーク大学などで創作、ジャーナリズムを学び、この頃からフリーランスとして活動。Berlitz Translation Services Inc.CNN Inc.本社勤務などを経て帰国。

MSNスポーツと『Number』の協業サイト運営、MLB日本語公式サイトをマネジメントするなど、スポーツ・プロデューサーとしても活躍。

推定市場価格1000万円超のコレクションを有する雑誌創刊号マニアでもある。