【MLB】ナンバーワン・ポーズに兜や金色のダンベル……今昔の野球パフォーマンスについて考える

 

【MLB】ナンバーワン・ポーズに兜や金色のダンベル……今昔の野球パフォーマンスについて考える
18年ぶりにワールド・シリーズで優勝、人差し指を挙げるヤンキースのジョン・ウェッテランド (C) Getty Images

2023年の東京六大学春季リーグは、明治大学の3連覇で幕を閉じた。記録員の私は近い距離で優勝決定シーンを見たがこの後、続々と同じシーンが各リーグで繰り広げられることだろう。高校野球でも春の県大会、地区大会と優勝校が決まる。

2023年春、明治大学優勝シーン 撮影:篠原一郎

自分には経験がないことだが、優勝することは日ごろの苦しい練習が報われる瞬間で選手が歓喜の表情を浮かべ、身体いっぱいに喜びを表すのは見ているほうが感動することもある。

しかし、マウンドに優勝ナインが集まるときに、どうしてみんな人差し指だけを立てて手を上げるのだろう。

このポーズを私はあまり好きではない。プロ野球ではやっていないし、高校でもほかの競技でインターハイ優勝経験のある大学生に「優勝したときに人差し指を立ててみんなで抱き合って喜んだか」と聞いたところ「そんなことはしなかった」という答えだった。夏の甲子園が近づくと、各都道府県予選の優勝シーンも連日報道されるが、ほぼ例外なくこれをやっている。高校野球だけどうしてやっているのだろうと思うのだが、大学生もやっていることをこの春、改めて認識したのである。

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■ポーズはいつ頃生まれたか

彼らから見たら生まれたときからそのシーンを見てきて、大きくなったらこれをやると子供の頃から思ってきたのかもしれない。

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各メディアの紙面を飾った有名シーン (C)Getty Images

いろいろな説があるのだろうけれども、印象深いのは1996年のワールドシリーズだ。それ以後は頻繁にワールドチャンピオンになるニューヨーク・ヤンキースだが、1978年以来18年ぶりの優勝だったこの年の騒ぎは大変なものだった。アトランタ・ブレーブスとの顔合わせ、しかも第1、第2戦を地元で連敗、その後敵地アトランタで3連勝し地元に戻って第6戦にも勝利、つまり「本拠地での2連敗のあと4連勝(2000年の巨人が同じ勝ち方をしている)」という過去にあまり例がないパターンの逆転優勝だったこともあり、例年に増して優勝ナインはマウンドでもみくちゃになった。

このときの試合を含め勝利した4戦すべてにセーブをあげて締めくくった守護神ジョン・ウェッテランドがマウンドの輪の中で右手を高々と差し上げていた。そして、警備用なのかわからないが馬がフィールド内に入り、マウンドの輪がほどけたあとに主力選手のウェイド・ボッグスという通算打率.328を誇る大打者がその馬に乗り、やはりナンバーワン・ポーズをしながらグラウンドを一周したことが大変強く印象に残る。

ただし、そのポーズがすぐさま甲子園に輸入されたわけではない。1999年の桐生第一高校あたりから数人の選手が右手を上げて駆け寄り、うちひとりふたりが人差し指を立てるようになり、その後は増える一方となってきた。

気持ちはわかるが歓びの体現は最小限にしてホームプレートに整列してもらいたいものだ。

ちなみにウェッテランドと2009年のワールドシリーズMVP松井秀喜には思わぬ共通点がある。どちらもメジャー最高の舞台でMVPに輝きながら、当該年ヤンキースから放出された。

■プロ野球界でも散見するパフォーマンス

エンゼルスの大谷翔平(C)Getty Images

こうした「はやりすたり」はプロ球界でもあるもので、2年前にサンディエゴ・パドレスがスワッグチェーンと呼ばれるメダルをホームラン打者にかけるようになり、同じシーズンにブルージェイズはジャケットを着せるようになった。

日本の阪神タイガースがパドレスを真似てホームランを打った打者にダッグアウトでオリジナルメダルを首にかけることをしたが、解説者時代のOB岡田現監督は弱小チーム、パドレス(本人が思っているよりはこの頃は弱くはないのだが)の真似をしなくても…という言い方をしている。監督就任後の今年はやっていない。やらせていないというべきか。

選手たちはどう思っているのかはわからない。ホームランを打ったことがない打者は「一度でいいから監督にメダルを首にかけてもらいたい」と思っていたかもしれないし、球団による公募で選ばれたファンのデザインをかけることによって、ファンとの一体感も生まれるという考え方もあるだろう。

プロスポーツではそれは球団あるいは監督の方針でどちらでもいいと思うが、興味深いのは2021年の7月に始まったトロント・ブルージェイズがホームラン・ジャケットを今季から廃止したことである。「7点差のときにホームランを打っても心から喜べないから選手で話し合って決めた。みんなのハイファイブで十分」ということだそうだ。

今はレッドソックスが金色のダンベル、エンゼルスが兜をかぶらせているのが目立つけれども、それでチームの一体感が醸成されるものだろうか。

あまりコラムの書き物としてはふさわしくない表現だが、ハイファイブにしたって「めんどうくさい」と当該打者もダッグアウトの選手も思っているのではないだろうか。

キャリア初のホームランとか、起死回生の一発のときだけやればいいのではないだろうか。みんながやりたいのなら続ければいいのだけれど。

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著者プロフィール

篠原一郎●順天堂大学スポーツ健康科学部特任教授

1959年生まれ、愛媛県出身。松山東高校(旧制・松山中)および東京大学野球部OB。新卒にて電通入社。東京六大学野球連盟公式記録員、東京大学野球部OB会前幹事長。現在順天堂大学スポーツ健康科学部特任教授。