【GM Interview】スポーツ界の次世代リーダー、葦原一正ハンド代表理事 後編 日本における「スポーツの地位向上」とその勝算

(C)JHL/Yukihito Taguchi

■ハンドボールの魅力とその勝算

もちろん、ハンドボールリーグの変革についてもビジョンを持つ。

「記者会見でも伝えた通り『葦原が何か変えてくれるだろう』では何も変わらない。物事を大きく変えて行く際は、選手もチームもファンも、当事者意識を持たないと変わらない。みんなで「変える」という意識をもってもらいたい。ハンドボールをどう変えるかにもよりますが、他のスポーツにとっての希望の光を目指しています」と新代表理事としての決意も並ならない。

ハンドボールの魅力も大きかった。

「まずはフィジカル、アスレティシズムを要求される非常に激しい競技なので、その魅力を伝えることができれば勝算はあります。また、アリーナ・スポーツである点。バスケももちろんですが、フットサルなど他競技とアリーナを埋めて行ければ成功は見えて来る。スポーツ界は、野球だけだった時代が終わり、魅力ある各リーグが登場、そして街中でさまざまなスポーツを観戦できる時代を作ることができれば、日本のスポーツは変わって行きます。そのひとつがハンドボールです」。

(C)JHL/Yukihito Taguchi

日本ではあまり知られていないが、ヨーロッパでのハンドボールの人気は著しく高い。その魅力を広めることができればという勝算もあろう。

■日本における「スポーツの地位向上」を目指して

葦原さんはその著書でも常々、日本スポーツの問題について多くのポイントを列挙している。もっとも根本的な問題として、日本社会における「スポーツの地位」について水を向けてみた。

「アスリートの価値を上げたい。アスリートがビジネスサイドに入って来ると、事務方からの『どうせ何もできないだろう』という酷い偏見もある。私自身は、いやそんなわけはないと思います。どんなカテゴリーにせよ、圧倒的にひとつのスポーツを極めたアスリートたちは、その裏に信じされないような努力を積み重ねています。その努力をビジネスサイドに振り分けられないわけがありません」。

次に目標とするのは、スポーツ全般に対する価値向上だと指摘した。

「世論としても『五輪やろう』とこれだけ機運を盛り上げておきなら、状況が悪くなると『五輪は中止』と風向きが変わる。つまり、本当にスポーツは必要ないのでしょうか。ドイツでは昨春も新型コロナ禍においても『サッカーは大事』とメルケル首相が声明を出し、いち早くリーグ戦は再開。スポーツは生活の一部、人生の一部となっている。それが、日本においてスポーツは娯楽の『ワン・オブ・ゼム』、このままではいけない」。

日本人特有のヒステリーもあるのか、この議論はぜひ重ねたいもの。機運が高まると「スポーツの力」と持ち上げるのだが、少し風向きが変わると「五輪は中止」と手のひらを返す。これでは、スポーツに、五輪に、人生を賭けているアスリートにとっても無礼だろう。政府の日和見主義、我田引水根性が災いし、五輪アレルギーへと昇華してしまっている点を差し引いても、日本人の熱しやすさ、覚め安さは無情だ。

「なかなかスポーツが議論される環境にならない。それでも少しずつは変わって来ていると思います。五輪(開催可否)の流れの中で議論されること自体は良い傾向とは捉えています。これは個別の競技に閉じこもるのではなく、スポーツ界全体で捉えなければならない、大きな課題だと思います。その上で『スポーツは不可欠だ』と言われるような国なって行くのが理想です」と前を向く。

最後に「スポーツ界の次のリーダーは、葦原さんですよね」と切り出した。Jリーグ初代チェアマンであり、2つのリーグに分離していたバスケをBリーグに昇華させた川淵三郎さんの豪腕を目の当たりにし、その知見を受け継いで来た点には間違いない。

「1990年代に(Jリーグ創設という)あれだけのことを成し遂げ、あれだけのバイタリティと信念を持った人はなかなかいませんよ」と、川淵さんの器の大きさを讃えた。

「私は川淵さんの足元にも及びません。そこまでの高レベルの方はスポーツ界にいない、次世代が育っていないと言うメディアの方々の指摘は正しいかもしれない。ただし、一方で、チーム、リーグで頑張っている30~40代ぐらいの若い人も多い。こうしたメンバーを登用できれば、スポーツ界は変わります。この構造は、スポーツ界だけではなく、日本社会全体の問題。(若い世代を登用する)社会的な寛容も必要です」と社会が抱える構造問題についても厳しく指摘した。

膠着した日本社会には「信念を持って動く人が不可欠」とした上で、「そうした人材を日本社会全体で押し上げるためにも、スポーツ界が率先してそのように変えていくこともひとつのカタチだと思いますし、その動きがいずれ、『スポーツが不可欠だ』とされる日本に変革していくことに繋がると、私は思います」と締めた。

東京五輪組織委員会森元会長辞任の際、川淵さんの就任に取り沙汰された。結果として、その決定プロセスが大問題となり、見送りとなった。しかし、Jリーグ創設時も、また分断された国際連盟から見切りをつけられたバスケットボール界をBリーグとして結実させたのも川淵さんの手腕である点は誰も否定できない。そうした「火中の栗を拾う」川淵さんから多くのリーダーシップを吸収して来た葦原さんがその手腕を発揮しようとしているハンドボール、これに注目しないわけにはいかない。

インタビュー後、読者プレゼントのため、著作にサインを頼むと、そこにはこう記されていた。「世界最高峰リーグへ。日本ハンドボールリーグ代表理事 葦原一正」と。こんな男、ちょっといない。

◆【前編】スポーツビジネスは「中学3年からの夢」

著者プロフィール

松永裕司●Neo Sports General Manager

NTTドコモ ビジネス戦略担当部長/ 電通スポーツ 企画開発部長/ 東京マラソン事務局広報ディレクター/ マイクロソフトと毎日新聞の協業ニュースサイト「MSN毎日インタラクティブ」プロデューサー/ CNN Chief Director of Sportsなどを歴任。出版社、ラジオ、テレビ、新聞、デジタルメディア、広告代理店、通信会社での勤務経験を持つ。1990年代をニューヨークとアトランタで過ごし2001年に帰国。

この記事が気に入ったらフォローしよう

最新情報をお届けします