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【テニス】殿堂プレーヤー、ノボトナに捧げる クレイチコバの全仏オープン単複優勝

【テニス】殿堂プレーヤー、ノボトナに捧げる クレイチコバの全仏オープン単複優勝
全仏オープンで四大大会初優勝&単複2冠を達成したクレイチコバ(C)Getty Images

■2週間で15試合、「真のテニスプレイヤー」としての歴史的偉業

2011年にプロデビューし3年をかけ、ようやく100位台をマークし全米オープン予選に出場。そこから予選敗退が続いてしまうが、さらに3年半後に全仏の予選を勝ち上がり初のグランドスラム本戦出場を果たした。長い道のりだった。

それが今季に入りWTA1000のドバイ・テニス選手権で準優勝し弾みがついた。その後、全仏前哨戦のストラスブール国際では念願のツアー初タイトルを獲得し、ランキングもキャリアハイの33位に浮上。今大会はノーシードながらもシード勢に劣らない実力と自信を備えていた。

シングルスでのグランドスラム本戦は今大会で5回目の挑戦。これまでの戦績では2回戦進出が最高。大会のほとんどをダブルスのみで過ごしていただけに、今回は大忙しの毎日だっただろう。

彼女はシングルス、ダブルス、ミックスダブルスと3種目に出場していたため、シングルス決勝時はなんと14試合目という大仕事をやってのけたのだ。それもこの過酷な闘いと呼ばれる赤土の舞台で、翌日のダブルス決勝を合わせて2週間で15試合を戦いきった。これには誰もが驚いたに違いない。

グランドスラムで単複を制する者はなかなか輩出されない。シングルスに懸け、体力温存のためにもダブルスに出場しない選手が多いのも事実だ。しかし、シングルスとダブルスの楽しみを知り、ここまでそのテニスを磨き上げて来た彼女は「真のテニスプレイヤー」として歴史に名を刻んだ。そんな彼女の歴史的快挙に、きっとノボトナも満足そうに天国で微笑んでいるに違いない。

■世界ランクも急上昇、ウィンブルドンへ高まる期待

そして今までのダブルスでの活躍は、このシングルス優勝へと繋がっていた。今回、シングルスは初の決勝ではあったが、大会終盤の雰囲気をジュニア時代から肌で感じていた今までの経験がとても大きいように思える。センターコートの雰囲気のみならず、ロッカールームや選手控室の空気を知っていた点も精神的な大きなプラス要素だっただろう。

ダブルスで培ったともいえる針の穴に糸を通すかのようなコントロール精度は、シングルスの緊迫した場面でも大いに活きていた。立体的に戦術を組み込み、前後への揺さぶりもドロップショットで決めることだけを考えるのではなく、次の一手としてロブを起用していた場面も多く見られた。トップであれば当たり前の実力だと思うだろうが、トップに立つまでに幾度も失敗を重ねながら打つ場所への理解を深めてきただけに、ここぞという場面で自身のスキルを信じきれた点は勝利の鍵になったはずだ。

パリでのすべての戦いが終わり、エッフェル塔をバックに2つのトロフィーを掲げた新女王は、コート上とは違い、とてもリラックスした表情で笑っていた。今回の結果によりランキングは再びキャリアハイを更新。シングルスは33位から15位へジャンプアップ、ダブルスは7位から1位へと返り咲いた。

彼女の物語は今後さらに魅力的になっていくだろう。すでにグラスコートシーズンが始まっており、ウィンブルドン開幕も目の前だ。

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恩師ノボトナから受け取った最後の言葉は「とにかく楽しんで、グランドスラムで勝ちなさい」だったという。その恩師が光り輝いたウィンブルドンのセンターコートで、彼女は再び大きな勝利を掴み取れるだろうか。

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著者プロフィール

久見香奈恵
1987年京都府生まれ。10歳の時からテニスを始め、13歳でRSK全国選抜ジュニアテニス大会で全国初優勝を果たし、ワールドジュニア日本代表U14に選出される。園田学園高等学校を卒業後、2005年にプロ入り。国内外のプロツアーでITFシングルス3勝、ダブルス10勝、WTAダブルス1勝のタイトルを持つ。2015年には全日本選手権ダブルスで優勝し国内タイトルを獲得。2017年に現役を引退し、現在はテニス普及活動をはじめ後世への強化指導合宿で活躍中。国内でのプロツアーの大会運営にも力を注ぐ。