■現在、東京スカイツリーのコミュニケーション戦略を担当
現在、齊藤さんは東京スカイツリーのコミュニケーション戦略を手掛けているが、そこでSDGsについても提案していた。スカイツリーとしては、これまでSDGsについて多くを語って来なかったと考えていたものの、これまでの企画をひとつひとつ丹念に拾って行くことで、将来につながるSDGsを明確化することに成功。国連75周年を記念し、タワーをSDGsの持続可能な開発目標を表す17色のライトアップにトライしたところ、そこで社員ひとりひとりにも自覚が生まれ、SDGsについてのメッセージ性が明らかになったという……実例を挙げてくれた。
本来であれば多くの観光客が海外から押し掛けるスカイツリーだが、新型コロナ禍においては、電波塔としてグローバルに向け、ポジティブなメッセージを発信して行く発信源の役割を果たしている。現在、グローバルステージに進むために、ジェンダー平等やインクルージョンといった世界の課題にむきあい社会の進化に貢献しようと、世界的な写真家レスリー・キー氏とともにプロジェクトを推進している。どんな企業においても、ストーリーとメッセージ性は重要な指標という一例だろう。
また、一般社団法人日本ゴルフツアー機構の広報アドバイザー、一般財団法人ホッケージャパンリーグ理事という肩書も併せ持つ齊藤さんに、スポーツという男性ばかりの真っ黒な業界について問題提起してみた。
スポーツ業界そのものが男性社会であり、女性の意見を真摯に参考にしようとするフシがないのではないかと前置きした上で「自分自身も例えば30人の男性グループな中で主張するためには、その方法論も含め、非常にエネルギーを消費していると思います。ただし、その中には私の役割も踏まえ、活かしてもらえるように関わり方は常に考えるようにしています」と、日頃からのその難易度については痛感しているという。
「しかしだからと言って、男女比を調整し、女性の人数合わせだけ行うというのは、観点が違うと思います。森(喜朗)元会長の件などを考えると(男性も)ある年齢を超えると、もともと持っている哲学を変えることは難しいと思います。そうした方は、それまでに培って来た知見を活かしてもらうことは大切にしつつ、これから育って来る若い世代に、時代に合った新しい哲学を学んでもらう方向を模索し解決するしかない……とも考えます。日本の会社だと、『偉い人の前で部下は発言しちゃいけない』などの不文律もあるので、新しい世代に感性を広げてもらい、新しい組織を構築してもらうのが次善策かと」と穏やかに苦言を呈した。
確かにスポーツ界においても、フェンシング協会やハンドボールリーグのように新しい世代がスピード感を持って変革し始めている団体も増えてきている。今後、新しい世代が台頭する流れにより、ジェンダーイシューも洗い流され、解決へと向かうのかもしれない。
■早稲田大学大学院で博士号を取得した理由とは……
齊藤さんはこの春、早稲田大学大学院で博士号を取得、修士がそれほどまでに珍しくなくなった現代ではあるものの、スポーツでの博士号となると、どんな意図があるのか訊ねた。
「日本のスポーツは、どうしても悪しき『体育』の発想から抜け出すことができない部分が残っています。そこで博士号というアカデミックなフィールドからその発想を一蹴することができるのではないかと考えました。アカデミーの領域に自らが入ることで、その視点を活用し、広げて行くことができると……」。
ここで少々唸ってしまった。スポーツ業界で博士号というと大学の研究者として活動する固定概念があったが、そんな活用方法を念頭においているとは、目からウロコほどの思いだ。
「車椅子マラソンの金メダリストタチアナ・マクファデン選手などはパラアスリートの権利を勝ち取るために、社会的取り組みを進めています。競技と同様に熱意を持って取り組んでいますが、日本ではこうした活動も『競技者は競技だけに集中しろ』という悪しき風潮が残っています。これを変えることで、引退後もすぐに社会に貢献できるアスリートとなる流れを作り出す必要性があります」、と固定概念に凝り固まった日本のアスリート感についても疑問を呈した。
「スポンサー企業も同様かと思います。もっともスポーツの価値を活用すべきです。日本の企業は技術力があっても発信力がない。スポーツはそうした発信力を促進させますし、その源泉はアスリートです。その選手自身のストーリーを発信するメディアも必要だと思います。私としては、選手のマネジメントにもかかわり、選手の発信を、選手の価値を高めて行く手助けができればと考えています」と現状に甘んじない志を語った。
「アスリートの素顔を伝える」メディアSPREADとしても、ぜひこうしたコミュニケーションを繋げることができるよう、より一層精進したいもの。
コミュニケーション……それこそが、ホモサピエンスを他の類人猿とは異なり、ここまでの文化、スポーツの担い手へと押し上げた最強のツールだ。小山田圭吾辞任問題などは、こうしたコミュニケーションをないがしろにした大きな代償だろう。
スポーツ界の、また日本社会のコミュニケーションについて、今一度ここで、改めて見つめ直してみたいものだ。
◆【インタビュー前編】スティーブ・ジョブズに学んだコミュニケーション哲学
◆【スポーツビジネスを読む】日本最大級スポーツサイトのトップ・山田学代表取締役社長 前編 MLB公式サイトをめぐる冒険
著者プロフィール
松永裕司●Stats Perform Vice President
NTTドコモ ビジネス戦略担当部長/ 電通スポーツ 企画開発部長/ 東京マラソン事務局広報ディレクター/ Microsoftと毎日新聞の協業ニュースサイト「MSN毎日インタラクティブ」プロデューサー/ CNN Chief Directorなどを歴任。出版社、ラジオ、テレビ、新聞、デジタルメディア、広告代理店、通信会社での勤務経験を持つ。1990年代をニューヨークで2000年代初頭をアトランタで過ごし帰国。Forbes Official Columnist。

















