【高校野球】コロナと雨に翻弄された夏の甲子園の収穫

2年ぶりの夏の甲子園は、8月10日に開幕した。

春のセンバツは大会初日に試合のあった6校による開会式を行ったが、夏は各地区を勝ち抜いた49代表が一堂に会した。1校のベンチ入り選手は18人。阪神甲子園球場には、国歌・大会歌などの演奏を行うブラスバンド、大会関係者を合わせて1000人以上が集まっていた。

俳優・歌手である山崎育三郎による大会歌『栄冠は君に輝く』の独唱が響き、49代表の選手たちが行進。小松大谷石川)の木下仁緒主将が選手宣誓をしたあと、夏の甲子園がスタートした。

山崎の独唱とそれに続く選手宣誓は見事だったが、開会式を見ていた記者たちからこんなつぶやきが聞こえてきた。「開会式に全選手を集める必要があったのかな……。キャプテンだけでもよかったのでは……」。「これだけコロナの陽性者が出ているだけに心配だな。何事もなく、大会が終わってくれればいいんだけど……」。

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■帰ってきた甲子園はコロナと雨に祟られた

大会第1試合は日大山形(山形)が米子東(鳥取)との接戦を制して勝利。観客は学校関係者のみではあったが、ブラスバンド部の演奏の力もあって、やっと甲子園に高校野球が戻ってきたと思わせた。

しかし、大会3日目の12日、明桜(秋田)対帯広農業(北北海道)の試合から雲行きがおかしくなる。大会ナンバー1投手の呼び声の高い明桜のエース・風間球打が140キロ後半の剛球を投げ込んだが、降雨のために4回でノーゲーム(中止)に。これは2009年以来のこと。13日、14日も試合ができず、文字通り、熱戦に水を差されるか形となった。

優勝候補同士の対決となった大阪桐蔭(大阪)と東海大菅生(西東京)の試合は、両校が得点を奪い合う接戦となったが、グラウンドが水浸しとなり、8回途中で降雨コールドゲーム。一、二塁にランナーを置き逆転を狙っていただけに、東海大菅生の選手たちの落胆は大きかった。

衝撃的なニュースが飛び込んできたのは、17日のことだった。智弁和歌山(和歌山)と対戦するはずだった宮崎商業(宮崎)の選手たちのコロナ集団感染が発覚。18日の試合を辞退することになった。初戦で優勝候補の愛工大名電(愛知)を下して甲子園初勝利を挙げた東北学院(岩手)の選手にも陽性者が出たために、2回戦の出場をあきらめざるを得なかった。東北学院の古沢環主将は「本音は次の試合もしたかったけど、甲子園1勝という目標を達成できた。感染、陽性者になった選手たちを、みんなでカバーしていきたい」と語った。

コロナと雨に祟られた夏__そう思った高校野球ファンもいるだろう。

■東日本勢不在、史上初の準々決勝

日大山形盛岡大付(青森)など東北勢の健闘が目立ったが、ベスト8に残ったのは西日本の高校ばかり(近畿5、北信越1、中国1、四国1)。関東勢(1都、6県)が勝ち上がれなかったのは1981年以来40年ぶりのこと。東日本勢(富山、岐阜、愛知、三重より東)のいない準々決勝は大会史上初めてだ。

2020年は春も夏も甲子園大会が開催されなかった。そのため、最後の夏に甲子園に挑む機会を奪われた三年生部員が悲嘆にくれる姿が特にクローズアップされた。各都道府県において、コロナ禍で夏の独自大会が行われたのは「三年生のため」だった。しかし、高校時代に5度しかない甲子園への挑戦権を奪われたのは、二年生も同じだった。 

ある甲子園強豪校の監督はこう言った。「一番かわいそうなのは、二年生かもしれません」。
そのときの二年生、いまの三年生は2年5カ月の高校野球生活の半分以上をコロナ禍で送ることになってしまった。練習時間は制限され、他校との練習試合もままならず、甲子園への挑戦権も失い、夏の代替大会では先輩に出場機会を譲ることになった……。

そんななかで、甲子園に出場した選手たちは何を学んだのか……。

プロ野球のあるスカウトはこう言う。「どのチームも、練習自粛期間があったなかで、実力を上げた選手と落とした選手がいました。その差は何か。時間の活用の仕方だと思います。

私が高校生だった数十年前には、自分のプレーを動画で見る機会はそうそうありませんでした。でもいまは、練習中でもスマホやタブレットを使って、すぐにチェックができる。選手同士で動画を撮り合えばいいんです。限られた練習であっても、そうして自分のイメージと実際のプレイの差を埋め、客観的に分析することで技術はより早く身につくでしょう」。

チームの全体練習は制限されても、自分自身でやれることが着実に増えている。最新のテクノロジーはすぐ近くにある。それを生かすも殺すも本人次第だ。「自分でやれることが増えたことによって、自分で自分をコーチすることが可能になりました。ツールを使いこなせる人、勉強を続けられる選手が勝っていくんじゃないでしょうか」。

甲子園まで勝ち上がった選手たちは、間違いなく、「勝者」である。聖地を目指して戦うなかで、さまざまな成果を手にしただろう。敗戦後に「やり切った」と笑顔を浮かべる球児が今年は特に多いように思う。

コロナと雨に翻弄された2021年の夏、甲子園はいよいよ準決勝を迎える。甲子園に挑むことさえできなかった先輩たちの思いを胸にここまで勝ち上がった選手たちは、最後にどんなプレーを見せてくれるのだろうか……。

◆熱い高校野球が戻る日まで それでも球児は「夏」を目指す

◆【著者プロフィール】元永知宏 記事一覧

◆史上初“甲子園”で決勝戦開催 「ボーイズで日本一」「フォロワー84万人」実力派揃いの歴史的一戦に注目

著者プロフィール

元永知宏●スポーツライター
1968年、愛媛県生まれ。立教大学野球部4年時に、23年ぶりの東京六大学リーグ優勝を経験。大学卒業後、ぴあ、KADOKAWAなど出版社勤務を経て独立。

著書に『期待はずれのドラフト1位』『レギュラーになれないきみへ』(岩波ジュニア新書)、『殴られて野球はうまくなる!?』(講談社+α文庫)、『荒木大輔のいた1980年の甲子園』『近鉄魂とはなんだったのか?』(集英社)、『プロ野球を選ばなかった怪物たち』『野球と暴力』(イースト・プレス)、『補欠のミカタ レギュラーになれなかった甲子園監督の言葉』(徳間書店)、『甲子園はもういらない……それぞれの甲子園』(主婦の友社)など。


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