【甲子園】金足農VS大阪桐蔭、試合までの流れに2007年の再現を危惧する声…対照的すぎるチーム同士の対戦

プロレスには「アングル」という隠語がある。文学で言うところの「コンテクスト(文脈)」が近いかもしれない。

ある善玉レスラーと悪玉レスラーが試合をするときに、その試合はそれ単体のみで成立しているわけではなく、何ヶ月も費やしてきたストーリーの行き着く場所…あるいは現在進行形の物語の一部である。

プロレスでは年に何回か大会場でのビッグマッチが行われる。たとえば新日本プロレスなら年明け1月4日の東京ドーム興行が1年のスタートであると同時に、前年から続いてきたストーリーに決着をつける場所だ。

この日本マット界で見ても最大規模のイベントを成功させるために、年間200試合以上の大会でストーリーを練り上げ伏線をばら撒く。観客の熱狂に試合のクオリティはもちろん、ストーリーが果たす役割は大きい。ファンの興奮度はかなりの部分がアングルの力で左右される。

ファイティングエンターテインメントであるプロレスは団体側が観客にアングルを仕掛けるが、それ以外のスポーツではどうか。

積極的に仕掛けられなくとも私たちは自分で文脈を摘まみ上げ、自ら作り上げたリング外のストーリーに沿って試合に参加していないだろうか。

8月5日の開幕から熱戦が続いてきた第100回全国高校野球選手権大会も、いよいよ21日の決勝戦を残すのみとなった。

史上最多の56校が参加して深紅の大優勝旗を争ってきたトーナメントで最後に残ったのは、春のセンバツも制し史上初2度目の春夏連覇に王手をかけた大阪桐蔭(北大阪)と、秋田県勢として第1回の秋田中(現:秋田高)以来、実に103年ぶりの決勝進出を果たした金足農(秋田)だった。

近年の高校野球界で無類の強さを誇ってきた王者に地方の公立高校、それも農業学校の生徒たちが挑む構図は高校野球ファンの興味と想像力を掻き立て大きな話題を呼んでいる。金足農の快進撃にはネット上で「#平成最後の百姓一揆」なる言葉まで生まれた。

ここでも一種のアングルが働く。

がばい旋風で甲子園を沸かせた佐賀北を思い出す

金足農の決勝進出には2007年、やはり地方の公立高校として決勝まで勝ち上がり、広陵(広島)を破って優勝した佐賀北(佐賀)の姿が重なる。

プロ野球の裏金問題や高校野球の特待生問題があり、野球界や私立強豪校に厳しい目が向けられていたなかでの大会で、佐賀北は全国の猛者を相手に最終日まで勝ち残った。

下克上再びと期待する野球ファンからは、「がばい旋風の時の佐賀北も奇跡を起こしたから金足農もわからないね」「甲子園の金足農高校を見てると、佐賀北を思い出して泣ける。優勝して欲しい」と応援メッセージが寄せられる。

その一方で佐賀北対広陵の姿に重ねることは、高校野球ファンの間で論争の種にもなっている。

あの試合が10年以上経ったいまでも鮮明に思い出されるのは、強豪私立を破った地方公立の優勝、甲子園決勝で史上初めて逆転満塁ホームランが生まれた、広陵の野村祐輔投手(広島)と小林誠司捕手(巨人)のバッテリーが後に揃ってプロ入りしたなども然ることながら、逆転満塁ホームランが生まれるまでの経緯にある。

世論を真っ二つにした佐賀北VS広陵戦

その試合で野村投手は七回まで佐賀北打線を1安打に抑えながら、八回に安打と四球で満塁のピンチを迎える。そして1アウト満塁から投じた球がボールと判定され押し出し。

判定に納得がいかない野村投手は驚き、苦笑い。小林捕手はキャッチャーミットを叩きつけて悔しがる。まず高校野球では見ない光景を覚えている人も多いだろう。そして直後の打者に逆転満塁ホームランを打たれて広陵は敗れた。

翌日のスポーツ紙には、広陵を率いていた中井哲之監督の「判定がひどすぎる」という審判批判が大きく載せられ、これもまた賛否両論を招いた。

中井監督は「あんな判定をされるとどう対処していいのかわらない。どこに投げたらストライクなんですかね」と記者団に怒りをぶちまけ、押し出し四球で萎縮してしまった投手は腕が思うように振れず真ん中に投げるしかなかったとエースを擁護した。

審判は絶対が前提になっているスポーツで審判批判は許されざる行為。それは中井監督も分かっているが、このときばかりは「言わないと変わらないでしょ」とクビ覚悟で物申した。

この1球をめぐる判定はそれだけにとどまらず、試合を通して審判の判定が広陵に厳しいものではなかったか、佐賀北に勝ってほしい空気が濃密になりすぎて、「佐賀北を勝たせよう」とする雰囲気に審判が飲まれてしまったのではないかと憶測が広がった。

判定はフェアだったと主張する側からは、「佐賀北にも不利と言えるジャッジがあった」「あの試合は両方にストライクゾーンが厳しかった」「あのコースは一貫して取らない球審だった」などの意見が出され、当時は議論が紛糾してなかなか収束しなかった。

賛否どちらの意見を持つにしても、あの異様な雰囲気のなかで甲子園のスタンドに放り込んだ打者の勝負強さと集中力は称賛されるべきものであり、その価値が減じるものでないという点では一致してほしい。

決勝では両チームに声援を

2018年の甲子園決勝も地方公立と強豪私立の対戦になった。ネット上では「対照的すぎるチーム同士の対戦」と盛り上がる。

そして盛り上がれば盛り上がるほど、「このアングルって2007年と一緒なんじゃ?」と11年前の夏を思い出す人も増える。

さらにSNSでは「金足農のレギュラー9人中6人が高校に入るまで野球未経験者だった」「エースの吉田輝星が部員を集めて野球部を一から作った」とする怪情報まで現れ拡散されている。

これに対しては訂正情報を流すアカウントもあるが、うっかり信じてリツイートしたままの人も多い。

コンテクストは拾い集めることで作品の理解を進め、より細かなネタや仕掛けまで楽しめるようになる。その一方で背後関係にばかり目を向けることで、かえって視線が作品から遠ざかってしまうこともある。

プロの興行でもない高校野球となれば、プロレス的なアングルを持ち込み善玉と悪玉に分けることには、いささかの慎重さも求められる。

金足農も大阪桐蔭も予選大会を制し、甲子園の厳しいトーナメントを勝ち上がってきたチームだ。

10代のひと夏を懸けた物語の終わりが、多くの祝福で溢れたものになることを願う。

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