4億4千万円の片棒を担いだブービー人気テンハッピーローズ、世紀の“一発大駆け”はいかにして生まれたか【ヴィクトリアマイル】

テンハッピーローズ/2024年ヴィクトリアマイル(C)Toshihiko Yanagi
テンハッピーローズ/2024年ヴィクトリアマイル(C)Toshihiko Yanagi

■2強が取りたかったポジション

もうひとつのポイントは序盤のポジションにある。ベストポジションはテンハッピーローズが位置した中団後ろの外。ここを取りたかったのがマスクトディーヴァとナミュールだった。当然、二人の名手も速い流れを察知し、内にいる先行馬が下がるため、進路を作りやすい外を狙っていた。しかし、ナミュールはスタートで遅れ、後方からのレースを余儀なくされた。道中も外に出せるポジションを模索したが、少し下げたところに後ろからルージュリナージュに来られてしまった。

ナミュール自身の出遅れもあったが、スタートで後手を踏み、腹をくくって直線勝負にかけた馬がもう一頭いたことも響いたと言える。そのルージュリナージュは追い込んで5着。力を出せるポジションだったのだ。

マスクトディーヴァも序盤は外を意識していた。だが、サウンドビバーチェが外にいて、出させてもらえなかった。昨秋からマジックマン・モレイラ騎手に変幻自在の競馬を見せつけられた日本勢は、当然ながらモレイラ騎手を意識した競馬が目立つ。中盤以降はドゥアイズがプレッシャーをかけたこともあり、マスクトディーヴァは最後まで外に出せず、内に切り返すしかなかった。結果、これが着順に響いた。

競馬は最後の攻防に注目しがちだが、それはほぼ序盤のレース運びに起因する。スタートやポジション争いなど隊列が決まる前の「初手」で背負ったハンデを最後にひっくり返せることはそう多くない。これは実体験としてあるはずだ。たとえば、本命馬が思ったより後ろのポジションになった、外差し馬場でスタート直後に内へ入ってしまった、最初のコーナーで馬群に入り砂を被る形になった……こうした事象を目にしても、馬券が的中したという経験は少ない。

波乱の立役者テンハッピーローズが外からライバルたちをねじ伏せたのは、2強が欲しかったポジションに収まり、序盤から中盤にかけての完璧なレース運びをみせたからだ。それは津村騎手が一つ一つ丹念に勝利を積み、栄光のときを求め、たゆまぬ努力を続けた成果でもある。

競馬はわずかなことで結果がいかようにも変わるから、面白い。大波乱のヴィクトリアマイルはそんな繊細さを教えるGIでもあった。

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◆著者プロフィール

勝木淳
競馬を主戦場とする文筆家。競馬系出版社勤務を経てフリーに。優駿エッセイ賞2016にて『築地と競馬と』でグランプリ受賞。主に競馬ニュース・コラムサイト『ウマフリ』や競馬雑誌『優駿』(中央競馬ピーアール・センター)にて記事を執筆。Yahoo!ニュースエキスパートを務める。『キタサンブラック伝説 王道を駆け抜けたみんなの愛馬』(星海社新書)などに寄稿。

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