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【スポーツビジネスを読む】ラグビー新リーグで世界一のクラブを目指す 静岡ブルーレヴズ山谷拓志代表取締役社長 後編 経営者として常勝を支える理念とは……

【スポーツビジネスを読む】ラグビー新リーグで世界一のクラブを目指す 静岡ブルーレヴズ山谷拓志代表取締役社長 後編 経営者として常勝を支える理念とは……
会見後のフォトセッション 静岡ブルーレヴズ山谷拓志代表取締役社長(左から2番目) (C) 静岡ブルーレヴズ

■「日本に世界一のクラブを作る」その勝算とは……

日本のバスケ界では、千葉ジェッツ富樫勇樹が初の一億円プレーヤーとなり話題を呼んだものの、ロサンゼルス・レイカーズレブロン・ジェームズは年俸だけで43億円、総収入は100億円を超えるとされる。バスケ界で「世界一のクラブを」と風呂敷を広げても、なかなか具現化のハードルは高い。

昨シーズン、サントリー・サンゴリアスでプレーしたボーデン・バレットは、「ワールドラグビー年間最優秀選手賞」を獲得したニュージーランド代表。いわばラグビー界のリオネル・メッシだ。19年のワールドカップ成功も手伝い、そんな著名選手が日本でプレーする機会も増え、ラグビー界においては、日本と世界のTOPの格差は縮まって来ている。

日本に世界一のクラブを作る!」、そう豪語する山谷さんには勝算はある。

「そのためには実業団ではなく、独立採算制のプロチームである必要があります。私はもともと『ラグビーはプロ化すべきじゃない』派なんです。それまで企業から10億から20億円の予算を与えられていたチームがなにもない中でその金額を稼ぐのは大変です。数億円しか稼がなくて採算が立つのか。すると、どうしても選手にしわ寄せが行く。ラグビーはプレーヤーの人数が多いので予算規模も大きくならざるをえない。だから、プロ化すべきじゃない。ただ、あれだけワールドカップの盛り上がりを目の当たりにし、数万円のチケットを購入する人がいる。それだけの価値がラグビーにはある」と思い直した。

静岡ブルーレヴズが使用しているブリーフィングルーム(写真:編集部)

山谷さんにとって「おそらく」だが、実業団チームから独立採算制へと移行したシーガルズが頭にあったのだろう。

「完全にゼロから創るよりも、実業団として企業の広告宣伝費を活用、投資としそれを原資に移行する。最初の時点で10億から20億円を確保し、それに新たな売上を確保できれば40億円のクラブをつくることもできるかもしれない。。株式会社ですので、チームそのものに資産価値をつければ、後々には高く売却することも可能です」。

アメリカでは球団を売却に出すことで利益を引き出すなどは日常茶飯事。株式会社であれば、その株式の売却によってチーム存続が可能であり、日本の実業団チームのように突如解散……という悲劇はなくなる。

ラグビー新リーグにおいては、当初の構想が大きく変わりプロ化としては程遠い形になってしまったり、情報発信のまずさなど旧態然とした組織となっている。その問題点について訊ねると「(2リーグに分裂していた)バスケ界と比べたら、まだまだ全然まともだと思います」と一笑に付された。

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「私自身、性善説を信じていますし、ラグビー関係者もよかれと考えて動いた結果が、今の構造です。それをただ非難しても仕方がありません。何か新しいことを始める際は、まず実績をつくることから始めるしかありません。『頭が固い』と責め立てる前に、まずやってみせ、それから意見を交わす。どんな会社でも団体でも制約がある中で実績を出す。やりたいようにやれる組織があったら苦労しません。壁があるからこそ工夫するし、話し合います。障壁、制約があるほうが成長できます。ブレックスが優勝し、お客さんが集まってはじめてバスケ界で意見が通るようになりました」、まさに道理である。

これだけのキャリアを積み重ねて来た山谷さんに、これからスポーツ業界で働きたいと意欲を持つ方へのアドバイスを聞いた。

「まずは自分がやってきた仕事をしっかり棚卸したらよいと思います。スポーツは(メーカーのように)形があるものを売るビジネスではありません。チケット・セールスは、紙を売っているのではなく、試合を観る権利を売っています。広告、保険、研修プログラムなどなど、すべて目に見えないもの。そしてスポーツの興行という商材の特性として品質が保証されない。試合当日は土砂降りかもしれない、ボロ負けかもしれない。そうした不確定要素の中で、どう経営をリスクヘッジするのか。勝っても負けても楽しませなければいけない。スポーツビジネスには、こうした特徴があります。あなたがやってきた仕事の要素を棚卸し、その要素がスポーツビジネスにあてはまるか考えれば良いと思います」とスポーツビジネスを因数分解する。

「『あなたは何ができますか』と訊ねられた時、財務、マーケ、営業といった職種のみならず、その仕事から得たスキルや要素を踏まえて、スポーツビジネスのこんな仕事なら自分の持っているスキルを役立てることができます」とプレゼンしてくれれば、その人を欲するチームはあると思います。これまでのキャリアの中から『これができます』というプレゼンをしてくれれば……」とのアドバイスだった。

この日、取材班の手当をしてもらった中西類さんは、そんな一例だ。新チームでは、マーケティングと広報を担当。学生時代からサッカー、アメフトに明け暮れ、その後渡米。インドア・アメフト「アリーナフットボール」のプレーヤーとしてプロスポーツを目の当たりにして来た。アメリカでは、広大な土地の中、スポーツが文化として「共通言語」である点を学ぶ。多様な人種あれど、「スポーツが共通理念を作り上げている」と実感。その後、レッドブルで「とんがった」マーケティングを学び、静岡ブルーレヴズの設立を契機に、ご両親も奥様も東京出身ながら、家族とともに浜松へとやって来た。今後、山谷さんのもと、経営が学べればと熱意を燃やしている。

最後に、シーガルズで日本一、ブレックスで日本一、ロボッツでは経営再建とB1昇格……経営者として常勝を続ける秘訣についても、山谷さんに訊ねた。

「96年と98年、シーガルズで選手として日本一を成し遂げたことが原体験です。実体験として『強い組織』について学びました。これは一般の企業にも当てはまると思いますが、『選手の能力を100%発揮させる』これに尽きます」とのこと。

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対戦相手の能力が100とし、自チームの実力が80かもしれない。そこで相手チームが実力を70しか出させず、自チームが80の力を発揮できれば、優位に運ぶことができる。

「しかし、持っている力の100%を発揮できないケースがいくつもあります。まずコンディションが整っていない、作戦を覚えていない、そもそも作戦に納得していない。または作戦そのものに問題があるケース、コーチとの信頼関係がない場合もあります。これまで結果を出したチームは、決して絶対的に能力が高いチームではありませんでした。選手層が薄いなど弱点を抱えていました。これは『弱者の理論』かもしれませんが、軍勢が小さくても、相手の弱点を突けば勝てます」と力説する。

「ただし、それには選手が作戦を理解し、お互いを信頼している。心身ともに自らの力を100%発揮できる状況でなければなりません。そのためにはコミュニケーションがすべてです。質量ともに、全員の合意形成が出来上がっているかですね」。

指摘されてみれば、合点がいくポイントばかりだ。

インタビューを受ける山谷拓志さん(写真:編集部)

山谷さんは、この新型コロナ禍において「スポーツ離れが始まっているのではないか」と危機感を抱いている。

「スポーツがLIVE観戦できなくとも『オンラインで観るだろう』と考えていたものの、そうではありませんでした。むしろLIVEのスポーツがなくなり、スポーツよりも他に時間もお金も使えることに気づかれてしまった。このままでは、コロナが明けても、ファンが戻って来ない。もう一度『新規ファンを捕まえる!』、そうした意気込みで挑まないと厳しい。新規ファンの開拓を真剣に考え、そのファンを離さないエンゲージメントを作り出さなければいけません。東京五輪で改めてスポーツの素晴らしさに気づいてくれた方たちもいるはずです。予定調和のない、スポーツのわくわく感、本質的な価値には飢えているはずです。それをこれから引き出さなければなりません」。

こうした気概を持つ山谷さんが率いる新生「静岡ブルーレヴズ」、我々にどんな驚きを与えてくれるのか、「JAPAN RUGBY LEAGUEONE」は2022年1月スタート、その開幕が待ち遠しい。

◆【インタビュー前編】シーガルズで学んだ日本一の組織作り

◆【スポーツビジネスを読む】アマチュアを支援するメディア「スポーツブル」黒飛功二朗・運動通信社社長 前編 「Sk8er Boi」が代表取締役になるまで

◆シリーズ【スポーツビジネスを読む】

著者プロフィール

松永裕司●Stats Perform Vice President

NTTドコモ ビジネス戦略担当部長/ 電通スポーツ 企画開発部長/ 東京マラソン事務局広報ディレクター/ Microsoft毎日新聞の協業ニュースサイト「MSN毎日インタラクティブ」プロデューサー/ CNN Chief Directorなどを歴任。出版社、ラジオ、テレビ、新聞、デジタルメディア、広告代理店、通信会社での勤務経験を持つ。1990年代をニューヨークで2000年代初頭をアトランタで過ごし帰国。Forbes Official Columnist