MLBは、各球団レギュラーシーズンの70試合ほどを消化した。
今季ここまで、リーグ全体の死球数は883個。年間で2000個を超えるペースで記録されている。全30球団制になった1998年以降、年間2000個を超えたのは、昨年と一昨年の2年間のみ。
これは、2021年6月から実施された、投手の粘着性物質使用の取り締まりが影響しているのではないだろうか。
◆【実際の動画】昨季起こった大乱闘も死球が発端に、きっかけは制球ミスからの頭部死球とも
■一向に改善されない、MLB公式球が根本的な原因
大前提として、投手は「ロジンバッグ」以外の滑り止めを使用してはいけないルールがある。その一方で、ローリングス社製のMLB公式球は非常に滑りやすく、危険防止の範囲内であれば、ヘアワックスやシェービングクリームを忍ばせる“対策”に比較的寛容だった背景を忘れてはならない。
しかし、近年「スパイダー・タック」と呼ばれるウエイトリフティング用の強力な滑り止めが一部投手に浸透し、ボールの回転数が飛躍的に向上。試合が盛り上がるインプレーを増やそうと画策していたMLBにとって、いよいよ看過できなくなったというわけだ。
その結果は、投球データにも顕著に表れ始めている。
MLB公式「Baseball Savant」で、集計が始まった2015年以降のフォーシーム平均回転数トップ10を調べると、取り締まり強化後もランクインしている選手は殆んど存在しない。その影響は回転数だけに留まらず、懸念されていたリーグ全体の死球数増加にも繋がったようだ。
日本でも昨季話題となった、シアトル・マリナーズとロサンゼルス・エンゼルスの大乱闘も死球が発端となっている。多くは“報復”によるものであっても、元を辿れば、制球を乱しただけの意図しない悪球から始まったケースも珍しくない。
“抜け道を大目に見る代わりに、ボールの質は据え置き”という暗黙の了解を一方的に反故、正論だけを振りかざしたMLB機構に対して、ダルビッシュ有は「まずは、(滑りやすいボールという)根本的な原因を見直すべき」と一石を投じている。
早急な対応が必要な段階まで来ているように思われるが、依然として具体的な動きは見られない。
◆60本塁打も可能な、大谷翔平の移籍先候補 二刀流に及ぼす本拠地球場のアドバンテージ
◆新ルール導入で盗塁数1.4倍の大幅増、イチロー全盛期を超えるキャッチャー受難の時代
◆イチローが“惚れた”次世代の安打製造機、80年ぶり大偉業「打率4割」なるか
文●有賀博之(SPREAD編集部)