ドウデュースを導いた武豊の「リスキーな判断」 オーギュストロダンら外国馬惨敗は“競技の違い”が背景に【ジャパンC】

ドウデュース/2024年ジャパンカップ(C)ロイター
ドウデュース/2024年ジャパンカップ(C)ロイター

ドウデュースの進化が止まらない。

つい最近まで1勝2敗を繰り返し、鬱憤溜まったころにそれを発散するようなストレスフルな馬だったのが嘘のようだ。だが、一貫して競馬のスタイルは変わっていない。後方から外をぶん回し、直線一気。豪快ながら、現代競馬では安定した成績を収められそうにないスタイルだからこそ、1勝2敗を繰り返した。

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■ドウデュースの進化は“勝ちに行く後方待機”

若い頃はハマれば強いといった評価の展開待ちだった。思えば、ダービーも前半1000m通過58.9の持久戦をアスクビクターモアが粘り、直線は完全に心肺機能を試すスタミナ比べを後方からさらっていった。

流れが味方した面は大きい。走らせれば調教でとんでもない時計を打ち立てる全力型で、折り合いのコントロールが難しい。武豊騎手がもっとも得意とする馬だ。それだけにライバルたちと歩調を合わせるのが上手くない。馬群に入ると引っかかるのは、ライバルたちと合わせると自分のストライドで走れないからだろう。ストライドさえ伸ばしてやれば落ち着く。後方から大外を回す競馬には理由がある。

展開がハマるか、上手く得意の形に持ち込むか。ドウデュースには欠かせないものが多かった。だが、5歳秋は同じ大外ぶん回しでも、内容がまるで違う。天皇賞(秋)は前残りのスローにもかかわらず、後方からぶっこ抜いた。上がり600m32.5はそう簡単に繰り出せる末脚ではない。たとえ相手のペースであっても、それを断つ。逆転を狙うのではなく、勝ちに行く後方待機を完成させた。これぞドウデュースの進化だ。

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■武豊騎手らしい勝負勘の冴えが生んだ勝利

ジャパンCは天皇賞(秋)の走りさえ再現できれば勝てる。そんな確信はあった。だが、逃げ馬不在のなか、先手をとったのは春、後方から差していたシンエンペラーという予測不能の展開になり、2番手にはソールオリエンスと意外にもほどがある並びになった。当然ながらペースは上昇しない。

3ハロン目に13.0が刻まれ、その後も12.9。さすがに大人になったとはいえ、ドウデュースも行きたがった。菊花賞の再現を狙ったドゥレッツァが向正面でスタートの遅れを取り戻し、先頭に立ち、12.2-12.3とわずかにペースを上げるも、その後12.5-12.6とまた落ち着く。

1000m通過62.2、1600m通過1.39.6と条件戦レベルの緩さが続く。これを後方2番手から進めるドウデュースはさすがに届かないだろうと思わせた。実際、後半600mは11.5-10.8-11.1。完全に2着同着シンエンペラーとドゥレッツァによる世界だった。これを飲みこんだドウデュースの瞬発力は見事だが、それよりなにより、ポイントは3、4コーナーだ。

東京で半マイルから動くのは禁じ手に近い。なにせ直線は長く、スタミナをジリジリ奪う坂がある。心肺勝負になる直線を前に動くと、最後は決まって止まる。その危険を承知で動いた決断はいかにも武豊騎手らしい勝負勘の冴えだった。

だが、これだけではない。残り600~400mは11.5。これは内を立ち回った2頭が記録したラップであり、外をまくり、差を詰めていったドウデュースはこの区間で、想像を超える脚力を繰り出したことになる。残り400mでは先行勢をとらえる位置にいた。これが信じられない。外を回って、直線勝負にかけたわけではない。これがドウデュースのもう一つの進化。

さらに直線でもう一段階、瞬時にギアをあげられれば、敵うものはいない。勝てる後方待機を完成させた今、負ける要素がほぼないに等しい。序盤から緩み、勝負所で一旦、ラップが落ち、最後は11.5-10.8と加速する。レースラップの構成はどうひっくり返しても、後方から差せる競馬ではない。

さあ次は秋の古馬三冠がかかる有馬記念。5歳で達成すれば、史上初となる。

■シンエンペラーが示した“血統的価値”

完璧に近い勝ちパターンに持ち込んだ2頭は相手が悪かったとしか言いようがない。だが、この2頭にとってもキーになる競馬だった。

最初に先手をとったシンエンペラーは血統的価値に成長が追いつかないもどかしい状況にあった。幼い仕草が目立ち、ゲートが遅く、決まって遅れ差し。「能力は確かにあるんだが」という評価を今回、一変させた。ゲートを決め、先手を奪うなんて考えられないほどだ。これなら自力で勝ちに行く競馬もできる。凱旋門賞挑戦という経験がここにきて、大きな成果となってかえってきた。血統の価値を結果につなげられる状況が整った。

来年は大きなところを獲れる。最後の差しかえす勢いはドウデュースに迫るものがあった。ダービーをみても、広いコースが断然よく、春はドバイで楽しめそうだ。

同着のドゥレッツァは菊花賞のように途中で動いたのが結果につながった。外国人騎手は隊列を乱すような動きを嫌う傾向があるが、さすがにビュイック騎手は日本競馬を熟知している。ドゥレッツァの競馬もよく研究しており、今後も頼れる存在だ。本馬も今夏、英国インターナショナルSに挑戦した。結果は振るわなかったが、海外遠征の経験が再び活力を取り戻した。経験はたとえ結果がすぐ出なくても、その先につながる。同着2頭が示唆したものは、今後、海外に出ていく陣営に勇気を与えた。

■欧州馬敗戦の背景にあった“競技の違い”

さて、夢のカードを構成してくれた海外勢はゴリアットの6着が最高だった。奇跡のディープインパクト産駒オーギュストロダンもここまで遅くなれば、日本の高速馬場であっても、追走に苦労しなかった。中盤までレースに参加できており、特にゴリアットは好位につけ、一瞬、伸びそうな気配をみせた。しかし、遅い流れだった分、レース上がり33.4という究極の瞬発力勝負になり、対応できなかった。

日本の競馬は序盤か終盤が必ず速くなり、ギアチェンジを問う。瞬時にスイッチを入れるせわしなさについていけないようだ。

日本勢が欧州で適性の差を感じるが、これは翻って欧州勢も同じ。このイーブンな関係こそが、日本競馬の発展度合いを示す。お互い、ある種、競技の違いを乗り越えないと勝てない。各国の文化が反映され、統一規格がない競馬は健全な世界を築いている。ゴリアット、オーギュストロダン、ファンタスティックムーンの参戦からそんな世界がみえた。

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◆著者プロフィール

勝木淳
競馬を主戦場とする文筆家。競馬系出版社勤務を経てフリーに。優駿エッセイ賞2016にて『築地と競馬と』でグランプリ受賞。主に競馬ニュース・コラムサイト『ウマフリ』や競馬雑誌『優駿』(中央競馬ピーアール・センター)にて記事を執筆。Yahoo!ニュースエキスパートを務める。『キタサンブラック伝説 王道を駆け抜けたみんなの愛馬』(星海社新書)などに寄稿。