男子プロテニスツアー最終戦「ATPファイナルズ」。その年最強のプロテニスプレイヤーを決める最終決戦が11月10日〜11月17日にかけてイギリスのロンドンで開催されている。
「ATPファイナルズ」への出場資格が与えられるのは、男子プロテニスツアー年間順位上位8選手のみ。大会ではまず8選手を4人ずつの2グループに分けてそれぞれで総当たりの予選が行われ、上位2名ずつ計4名による決勝トーナメントが行われる。
今回で9回目の出場となるスペインのラファエル・ナダル選手は、今季のグランドスラム全てで4強以上、全仏オープンと全米オープンで優勝を果たすなど大活躍。年間ランキングでもノバク・ジョコビッチ選手を抑え、現在1位となっている。
言うまでもなく、世界最高のテニスプレイヤーの一人であるナダル選手だが、33歳となった今でも長らく活躍を続けられる秘訣はどんな所にあるのだろうか。
ここからは、そんなナダル選手の経歴や素顔に迫る。
サッカーか、テニスか 2人の叔父の存在
ナダル選手は両親に愛情いっぱいに育てられたが、同選手のスポーツへの才能を磨き上げたのは、2人の叔父だった。
叔父(母の兄弟)はサッカー元スペイン代表ディフェンダーのミゲル・アンヘル・ナダル氏。ナダル選手も少年時代、ボールを蹴ることに夢中になった。
もう1人の叔父(父の兄弟)であるトニー・ナダル氏は元テニス選手でもあるテニスのコーチで、当初よりナダル選手のコーチを務めた。同氏は、2018年まで同選手のコーチであり続けた。
テニスとサッカーに全エネルギーを注いでいったナダル少年。
学校での成績はあまり向上しなかったことが、父親であるセバスチャン氏の頭を悩ませたこともあった。そうして同氏が「少しでも息子が勉強に時間を割くように」という思いで施した解決策の一つが、「テニスかサッカーか、一つの競技に絞らせる」ということだった。
ここでナダル選手は、テニスを選択する。この結果が少なくとも誤りではなかったことは現在に至るまでの結果が証明しているが、もしサッカーを選択していたら、現在の「テニス選手としてのナダル」は存在していなかった代わりに、「サッカー選手としてのナダル」が、ひょっとしたら名を馳せていたかもしれない。
とにかく、この決断がナダル選手の人生を変えた。「学業のために」と下したセバスチャン氏の判断が、結果としていまのナダル選手を生み出したと言ってもいい。それまで双方向のスポーツに向けられていた熱量を、一つのスポーツに注ぐことになったからだ。
もし、あのまま器用に2つのスポーツを続けていたら、どちらのスポーツも「プロ」のレベルまでには到達しなかった、かもしれない。
トップアスリートになるために、海外に行くことは必須なのか?
トニー氏のもとでトレーニングを積んだナダル選手は、左手でのフォアハンドストロークを含め、テニスの技術を凄まじい勢いで磨いていった。
8歳の時にスペイン国内の12歳以下の大会で優勝するなど、メキメキと頭角を現すと、12歳になる頃には、その才能はスペインのテニス協会の目にも止まり、協会から「より高度なトレーニングをナダル選手に受けさせるため、バルセロナに移住してはどうか」といった要請が下るまでになっていた。
しかし、この要請は、「息子が勉学に時間を割けなくなるのでは」という両親の懸念もあり、折り合わなかった。加えて、コーチのトニー氏が「私はトップアスリートになるためにアメリカや、他の場所に行くことが必須とは思えない。家の周りでも練習はできるはずだ」という考えを強調したことに、両親が賛同していたことも大きかった。
トニー氏の意見が正しかったことは、ナダル選手の結果が証明した。
15歳でプロ入りしてからは、16歳でウィンブルドン・ジュニア・トーナメントで準決勝まで勝ち進み、17歳2ヵ月で世界ランキング50位入り。18歳にはアメリカとのデビスカップ決勝にも起用され、スペインの優勝に貢献した。
続けて、全仏オープンの前哨戦となるATPマスターズシリーズのモンテカルロ・マスターズでは18歳10ヵ月で優勝。世界ランキング10位入りを果たすと、続けて初出場した全仏オープンでは「19歳2日」の若さでグランドスラム(※)初優勝を達成した。全仏オープンでの初出場・初優勝は1982年のマッツ・ビランデル以来となり、大会でも4番目の年少記録だった。
※国際テニス連盟が定めた4大大会(全豪オープン、全仏オープン、ウィンブルドン選手権、全米オープン)を指す総称、またはそれら全てを制覇すること
全仏オープンの最多優勝・最長連覇記録を保持 異名は「クレーキング」
若い頃から活躍を続けるナダル選手は、これまでの現役生活で数々の大記録を打ち立ててきた。
グランドスラムでの優勝回数は歴代2位(19回)、キャリアゴールデンスラム(※)にいたっては史上2人目の達成、かつ史上最年少(24歳3ヵ月)で獲得している。
中でもクレーコートを得意としており、全仏オープンの優勝回数(12回)と連覇記録(5連覇)はどちらも歴代最多。マスターズ1000でも歴代最多となる35回の優勝を誇り、「クレーキング」の異名を持つ。
しかも、これらの記録は暫定のものであり、今後の現役生活で十分更新する可能性を残している。
(※)選手生活の中で、4大大会をすべて制し、さらにオリンピックで金メダルも獲得することを達成すること。
2019年10月には14年来の恋人と結婚
ナダル選手は今年の10月に恋人のメアリー・シスカ・ペレロさんと結婚。式はナダル選手の故郷のマヨルカ島にある城で行われた。2人の交際期間は14年間に及び、長らく事実婚状態だとされてきた中で結婚に至った。
世界的プレイヤーの妻となったペレロさんだが、ソーシャルメディアは一切シャットダウンし、極力メディアの注目が集まらない暮らしを送っている。また、ペレロさんは10年前にナダル選手が立ち上げた慈善団体である「ラファエル・ナダル財団」の理事としても活動している。
ナダル選手はかつて恋愛を長く続かせる秘訣について聞かれた時、「互いを理解すること、尊敬すること、そして特に、お互いに自立すること」と簡潔ながら力強い答えをしたことがある。
マリアさんは頻繁にはナダル選手の試合を会場で観戦しないというが、それが互いの関係を保つことにも繋がっているという。
2011年のインタビューでマリアさんは、「彼(ナダル選手)は、戦っている時には自分のスペースが必要なの。そして、ずっと彼にまとわりついて、彼の望みを一日中待っているなんて、私も疲れてしまうし。私が彼にどこまでも従った場合、うまくいかないことも増えてくると思う。私は窒息してしまうだろうし、彼はそれを心配してしまうわ」とコメントしているが、まさにこうした姿勢が、ナダル選手の言及した「お互いの自立」の考え方に合致するのだろう。
お互いに近い考え方をし、自立していることがまさに長続きしていることの秘訣となっていそうだ。
家族の存在が活躍を後押し
父のセバスチャンさんは実業家で、保険会社、そしてガラスと窓の会社といった、2つの会社のオーナーでもある。母のペレーナさんは、現在は「ラファエル・ナダル財団」の社長。
しかし、2009年に2人は離婚。その年にナダル選手は全仏オープンで敗北したため、この離婚がパフォーマンスに影響を与えたのではないかと噂されることもあった。
実際にこの出来事についてナダル選手は「彼らは私の人生の中核でもあったが、その柱は崩れてしまった。私は絶望したし、情熱を失った。人生における全ての愛を失ってしまった」と沈んだ気持ちを素直に表現している。
のち、2011年に2人は復縁した。
妹のイザベルさんは5歳ナダル選手と年が離れているが、とてもナダル選手と仲が良く、常に同選手の試合を訪れている。
兄との関係について、イザベルさんは「常に昔から、友達と遊ぶときも、お兄ちゃんはいつも私を連れていってくれた。そうした関係を変だと思う人もいたけれど、私たちにとってそれは普通だった。それが、私たちの仲の良さの一つの秘訣ね」と語っている。
ロジャー・フェデラーとの関係
ナダル選手の永遠のライバルであるロジャー・フェデラー選手。2人は世界最高のプレーヤーとして広く知られてきた。
両者の関係は、サッカーでいうクリスティアーノ・ロナウド選手とメッシ選手のような関係としても例えられることが多い。グランドスラムのタイトルを巡って争うこともしばしばだ。
ナダル選手は、互いの関係をこのように語っている。
「常にプラスの関係であり続けている。互いの尊敬、そしてたくさんの重要な瞬間を共有してきているし、それをいいやり方で迎え、追えている。私が誇らしく思っているところだ」
タイガー・ウッズと仲良し ウッズが試合に駆けつけることも
ナダル選手はゴルフのタイガー・ウッズ選手とも親交が深いようだ。
ナダル選手のインスタグラムには、ウッズ選手のマスターズ優勝を祝福する内容や、ウッズ選手がナダル選手の試合の応援に駆けつけた時の写真がアップされており、2人の仲の良さが見て取れる。
異なる競技の選手ではあるが、こういった同世代の選手の活躍がナダル選手の刺激となっているのかもしれない。
趣味はサッカーやゴルフ、ポーカーなど
ナダル選手は、テニス以外ではサッカーやゴルフ、ポーカーを楽しむことがしばしばある。2014年には、モナコでポーカーの女性チャンピオンと勝負をしたことも。サッカーでは、レアル・マドリードとRCMマヨルカのファンである。
ナダル選手はかつて不可知論者(人間は神の存在を証明することも反証することもできないと考える人)だと明かしたことがある。また、犬が苦手である。
ナダル選手は今年のATPファイナルズでも優勝候補の一角に挙げられているが、初戦のアレクサンダー・ズべレフ戦ではまさかのストレート負け。今季最終戦での優勝に暗雲が立ち込めている。
次戦は日本時間11月13日午後11時から、ロシアのダニール・メドベージェフ選手と対戦する予定。上位進出のために負けられない試合が続くが、幾度となく逆境を跳ね返しタイトルを獲得してきたナダル選手の奮起に期待がかかる。
参考:https://childhoodbiography.com/rafael-nadal-childhood-story-plus-untold-biography-facts/、https://www.thesun.co.uk/sport/3945964/xisca-perello-tennis-rafael-nadals-long-term-girlfriend-us-open/、https://www.telegraph.co.uk/sport/tennis/rafaelnadal/8704892/Rafael-Nadal-family-crisis-destroyed-my-body-and-soul.html